昨日、大阪府知事がポビドンヨード(イソジン)によるうがいを推奨したことから、『ポビドンヨードうがい液』が町の薬局から消え、製造元が出荷調整を行う事態となっております。今回は、『ポビドンヨードうがい液』を新型コロナ対策として用いることの問題点について述べたいと思います。
現時点で、ポビドンヨードを用いたうがいによって、新型コロナウイルス感染を予防する効果や重症化を防ぐ効果は科学的に十分な検証が行われていません。逆に、ポビドンヨードを用いたうがいが正常な粘膜を傷つけることは周知の事実であり、かえって感染リスクを高める可能性があります。また、様々な感染症から我々を守ってくれる口腔内常在菌まで完全に殺菌しますので、感染症から身を守る大事な防波堤を失うことにもなります。さらに、多量に用いれば消化管に重篤な腐食性潰瘍を引き起こす可能性があり、重大な健康被害をもたらすことになります。
我々が通常、風邪と呼んでいるのは、新型コロナウイルスと同じ「コロナウイルス」に分類されるウイルスによる感染症です。ポビドンヨードを用いたうがいが風邪を予防するかどうかについては、大規模な研究結果が既にあります。風邪の予防においては、ポビドンヨードを用いても明確な予防効果は得られず、水を用いたうがいでは風邪を40%予防したという結果でした。ですから、ポビドンヨードは本当に必要な方が治療のために用いるべき物で、誰もが予防のために使うという物ではありません。
現在の市中感染が拡大している状況では、ポビドンヨードを用いてうがいをすることは、さらに大きな問題があります。ポビドンヨードは接触した部位の新型コロナウイルスを死滅します。ポビドンヨードでうがいをすれば、口腔内や咽頭に存在していた新型コロナウイルスを一時的には死滅し、そのタイミングで行ったPCR検査は陰性になるでしょう。しかし、ポビドンヨードでうがいをしても、肺などに存在しているウイルスは死滅しません。そのため、「PCR検査は陰性であった」という誤った検査結果を得ることで、本当は感染者であるにも関わらず、通常の生活を続け、周囲にウイルスをまき散らし続けるというリスクが生まれます。故意にPCR検査前にポビドンヨードを用いてうがいをして、検査をすり抜けるようなことが行われれば、検疫の意味がなくなってしまいます。社会にとって大きなダメージとなりかねません。
以上より、科学的に大規模な検討が行われ、有効性が証明されない限りは、ポビドンヨードによるうがいは推奨すべきではないと考えます。ポビドンヨードは非常に殺菌力が高く、使用する部位や用途によっては他の消毒薬では代用できない消毒薬です。できるだけ早く、通常の供給体制に戻り、必要な方が必要時にきちんと使える状況に戻ることを願っております。