「サイトカイン」は関節リウマチの研究や治療においては、欠かすことのできない重要なターゲットですが、新型コロナウイルス感染症が流行する以前には、日常生活で皆さんが耳にすることはなかったと思います。新型コロナウイルス感染症の重症化メカニズムなどの説明として、「サイトカイン」という言葉を耳にすることが増えました。当院の外来でも、「サイトカインって何?」という質問を受けることが増えました。今回はサイトカインについてお話したいと思います。
「サイトカイン」とは、細胞から分泌される物質で、細胞同士の連絡に使われているタンパク質です。たくさんの種類があり、約800種類が体内で働いていると言われています。関節リウマチではTNF-α、IL-6など炎症性サイトカインと分類されるサイトカインが過剰に産生され、炎症を起こすことで関節の痛みや腫れが生じ、関節が破壊されていきます。一方、新型コロナウイルスの感染者のうち、特に症状が重い方では、炎症性サイトカインが暴走する「サイトカインストーム」が起こっていることが分かりました。新型コロナウイルス感染症では肺炎が注目されがちですが、肺にだけ影響する病気ではありません。ウイルスが体内に入り込み、直接、喉や肺を攻撃するだけでなく、ウイルスを認識した体内で過剰に産生されてしまったサイトカインも全身を攻撃します。そのため、血管炎や血栓症、脳梗塞、心筋梗塞、脳炎や腎不全など炎症性サイトカインが原因で全身の様々な場所で同時多発的に生命に関わるような病気を引き起こします。そこで、炎症性サイトカインの暴走を止めなければならない重症者に対しては、関節リウマチの治療にも使っている薬剤(デキサメタゾン、バリシチニブ、トシリズマブ)が使われています。
サイトカインとは、本来は細胞と細胞の間で情報を伝達し、正常な免疫を維持し、身体を整えるためのものです。なくてはならない物質ですが、時に暴走して病気を引き起こします。新型コロナウイルス感染症と関節リウマチは全く異なる病気ですが、サイトカインの暴走という同じ仕組みで悪化しています。
しかし、関節リウマチ治療中は免疫抑制状態にありますので、様々な感染症に対して弱く、新型コロナウイルスに関しても重症化しやすくなります。さらに、新型コロナウイルスに感染した場合には、関節リウマチの治療を休止しなければならず、関節リウマチの病状も悪化する可能性があります。なるべく感染しないように、引き続き感染予防に努めて下さい。