血液検査で調べた値は病気の診断や病態の理解に重要ですが、病気でなくても基準値(健常成人の値)を外れることがあります。女性は閉経後にはコレステロールや中性脂肪が高くなりますし、喫煙者では白血球数やCRP(炎症反応)が高くなります。妊娠は体内にダイナミックな変化をもたらしますので、様々な検査の結果が妊娠前とは異なってきます。基準値から外れていても治療が必要な病気とは限りません。さらに、同じ患者さんであっても、検査項目によっては採血のタイミングによって大きく変動します。日内変動がある項目であれば、同じ時間帯に採血して比較する必要があります。食事や運動などで変わる項目もあります。例えば、血糖値は食後に採血すれば誰でも上がりますので、厳密に検査したいときは食前に来院して頂く必要があります。
関節リウマチの患者さんでは、使用している治療薬によって血液検査の結果が変化することがあります。例えば、MTXを使用している患者さんでは、LDHの上昇に注意が必要です。LDHが高値となる疾患は数えきれないほどありますが、MTX使用中に上昇した場合は、MTXによって生じる造血器腫瘍の可能性を考えなければなりません。他にLDHが上昇する理由がなければ、リンパ腫などの精査を行います。また、トシリズマブを使用している患者さんでは、肺炎などの感染症を生じていても、血液検査でCRPが上昇せず、発熱や倦怠感といった自覚症状も出にくくなります。トシリズマブを使用中には、リンパ球が減少することもあります。リンパ球が減少すると、ウイルスの侵入を許し、重症化する可能性があるので注意が必要です。検査は全員に同じ基準で行うのではなく、使用している薬剤や個人の病態に合わせて行い、適切に評価することが重要です。
CK(CPK)は心筋梗塞や神経筋疾患の診断に用いますが、激しい運動や筋肉注射後、脱水、高脂血症の薬の一部やサプリメントの服用などでも上昇します。CK高値であった場合、採血の時点で激しい運動や脱水、サプリメントの服用などがなかったかどうか確認が必要です。治療が必要な病気があるかどうかを確かめるためには、さらに詳しくアイソザイム(CKの中の種類)を調べる必要があります。
白血球は感染から身を守るために非常に重要な役割を担っていますが、疾患によっては、病状の悪化によって極端に減少することがあります。SLEでは、病勢が高い時期に白血球数が急激に減少することがあり、注意が必要です。また、関節リウマチにSLEを合併することも少なくありません。関節リウマチ治療中に白血球の減少を契機としてSLEと診断されることもあります。
血液検査では、一度に多くの項目を簡単に確認できますが、その評価が正しく行われているかどうかが重要です。検査結果は基準値と比較され、自動的に「高値(H)」「低値(L)」と印刷されてきますが、それが検査を受けた方にとってどのような意味があるのか、治療や精査が必要な病態かどうかの判断は主治医が行います。検査結果を見て、ご不明の点、心配な点がございましたら、外来でお尋ねください。