新型コロナのワクチン接種は順調に進んでいますが、その陰で、大きな問題が棚上げされたままになっています。ヒトパピローマウイルス(HPV)への感染を予防するHPVワクチンです。政府は8月31日に「新型コロナウイルスの感染が落ち着いたら、積極的勧奨の再開のための検討を始める」と発表しましたが、それでは間に合いません。今回は、なぜ、HPVワクチンが重要なのか、積極的勧奨の再開を急がなければならないのかについてお話します。
HPVワクチンを適切なタイミング(12~16歳)で接種すると、子宮頸癌をはじめとするHPV感染によって生じる癌を生涯にわたって予防できます。日本では、毎年1万人の女性が子宮頸癌を発症し、約3000人が死亡しています。一方、2007年からHPVワクチンの接種に積極的に取り組んできたオーストラリアでは、2028年までには子宮頸癌がほとんどなくなる予定です。日本以外の多くの国が、オーストラリアに続くとみられています。
2018年にWHOがHPVワクチンによって子宮頸癌を撲滅することを目標に掲げ、世界各国がHPVワクチン接種プログラムを開始しました。これまで接種していなかった国では、一気に5学年が接種しなければなりませんが、ワクチンの供給量には限りがあります。そのため、2028年頃までは極端にワクチンが不足する状況が続くと考えられています。WHOはワクチンの供給不足を理由に男子への接種は延期するように呼び掛けていますが、英国など、既に男子にも拡大している国もあります。2021年現在でも、5000万接種の供給に対し、8000万接種の需要があり、ワクチン不足は深刻です。
日本では、HPVワクチン接種後に生じた体調不良について、全てワクチン接種が原因であるかのような報道が大々的に行われた結果、2013年に政府がHPVワクチンの積極的勧奨を中止してしまいました。発展途上国でも接種率90%を超える国が多数ある中、日本の接種率は0.6%と世界でも類を見ない低さとなっています。このまま、接種率が低い状態が続くと、2022年4月以降、既に購入済みで使用されていないHPVワクチンを使用期限切れで大量廃棄することになります。世界中が求めているワクチンを使用せずに大量廃棄するなど、あってはならないことです。MSD(HPVワクチンを製造している会社)が「大量廃棄した場合には、今後のワクチン供給に悪影響を及ぼす(≒日本には販売しない)」と警告したにも関わらず、厚生労働省は「積極的勧奨の再開を検討し始める」という発表に留めました。このままでは、大量廃棄は免れず、国際的な批判にさらされ、他の医薬品の供給確保に影響する可能性もあります。
日本がHPVワクチンを確保できなくなった場合、希望者にもHPVワクチンを接種できない状態になり兼ねません。対象年齢のお子さんがいらっしゃるご家庭では、お早めにHPVワクチンの接種をご検討下さい。