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生物学的製剤とJAK阻害薬の違いについて

 この20年間で関節リウマチ治療は大きく進歩し、症状が完全にコントロールできている寛解の状態を目指すことが普通になってきました。適切な時期に必要な治療を開始された場合には、関節の破壊や内臓への影響を来すことなく、発症前と変わらない生活を続けることが可能になっています。この治療成績の向上は、MTXなどを用いた基本的な治療で十分な効果が得られない場合に次のステップとして生物学的製剤やJAK阻害薬を使えるようになったことが大きいです。現在、生物学的製剤は9種類、JAK阻害薬は5種類の製剤が使用可能です。
 今回は生物学的製剤とJAK阻害薬の違いについてお話したいと思います。生物学的製剤はTNF-αやIL-6などの炎症性サイトカイン(関節の炎症を引き起こす物質)の働きを阻害して治療効果を得ます。一方、JAK阻害薬は細胞内での情報の伝達を阻害することで炎症性サイトカインの産生を抑えて治療効果を得ます。生物学的製剤は特定の炎症性サイトカインを標的にしていますが、JAK阻害薬は複数の炎症性サイトカインを標的にしています。そのため、JAK阻害薬はいくつかの生物学的製剤で十分な効果が得られなかった患者さんでも治療効果を得られる可能性があります。JAK阻害薬は生物学的製剤よりも高い治療効果が得られますが、後発品がなく、3割負担でも月に3~4万円の支払いが必要となるため、経済的な問題で選択できない場合もあります。
 また、関節リウマチの治療薬はどの薬剤も自己免疫を下げるという特性から感染症のリスクをはらんでいますが、その中でも特にJAK阻害薬は帯状疱疹の発症リスクが高いことが明らかになっており、注意が必要です。さらに日本人のJAK阻害薬投与中の帯状疱疹発症リスクは多人種よりも高いとする報告もあります。当院ではJAK阻害薬を治験の段階から用いているため、多くの報告と同様、他の薬剤を用いている場合と比較して高率に帯状疱疹になることを実感しています。そこで、現在はJAK阻害薬を用いる患者さんには事前に帯状疱疹ワクチンの接種をお勧めしています。2020年に発売が開始された帯状疱疹ワクチン(シングリックス)は帯状疱疹の発症予防効果90%以上、最も多い合併症である帯状疱疹後神経痛の予防効果90%以上と非常に優れたワクチンです。2回の接種が必要で接種完了には4万5千円程度の費用がかかるために国内では接種が進んでいませんが、世界的には広く接種が推奨されているワクチンです。地域によっては助成制度がある場合もありますので、お住いの地域の制度を調べてみてください。
 もう一つ特徴的な感染症として、ニューモシスチス肺炎(PCP)があります。PCPは日和見感染症と呼ばれる免疫不全状態の方に特徴的な感染症です。間質性肺炎を生じ、重篤な状態になる可能性があります。JAK阻害薬を投与中にはPCPを生じるリスクがあるため、酸素飽和度の測定、血液検査(β-Dグルカン値の測定)、胸部X線検査(必要に応じてCT検査)を行い、早期発見に努めています。また、リスクの高い患者さんには予防投与を行うこともあります。
 JAK阻害薬は非常に効果の高い薬剤ですが、免疫を抑制することに伴う合併症の発生には注意が必要です。薬剤の特性をよく理解した上で使用しなければなりません。今日現在、75名の患者さんが内服中で非常に良い結果を得ていますが常に留意することがあるのは、どの薬剤でも同じ事と思います。

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